落石計画第4期 霧と銅 ―記憶の器― 概要

井出創太郎+高浜利也が、日本の東端の辺境に位置する廃墟、旧落石無線送信所を舞台に2008年より3年3期で進めてきた落石計画が、実行委員会の意向と地元関係者の方々の熱意あふれるご支援、ご要望を受けてさらに2年2期延長されることになった。昨年の第3期までに外装部が完成された対話空間(=銅版による茶室)は、毎年開催時ごとの新聞報道等により、多くの関心を集め落石計画の開催地である落石岬の象徴となりつつあり、内部を含めたプラン全体の完成が各方面から待ち望まれている。その内部壁面の完成を目指す第4期の本展覧会では、対話空間(=銅版による茶室)に、銅版画制作の実際の刷りで使用した"銅版の貼り込み"を、公開制作という形式で、展覧会の中核として披露した。並行して同じ会場内に、落石計画第4期を進めるうえでの重要なキーワードとなる『銅』と『霧』、『記憶の器』をテーマに井出創太郎+高浜利也が制作したインスタレーション、版画、ドローイング等を展示・構成。これらの展覧会とあわせて、関連行事として地元の子供たちが対象のワークショップやギャラリートークを開催し、美術関係者だけでなく、広く根室地域の住民の方々の参加を促し、4年という長いスパンで継続されてきた協働の中から生まれる、実情、実態に沿った地域文化創造・発信の端緒となることを目指すものである。
 一方で、ホワイトキューブではない、辺境の旧無線送信所跡で、(版表現を基調とする)展覧会を開催することで、従来の版画作品の展示概念を大きく超える新しい空間構成を図った。それは第3期において、現地で展示した"紙に刷り取られた版画"をさらに展開させ、版材である『銅』そのものを、落石の厳しい気象条件のひとつである『霧』に、意図的に(インスタレーション=『記憶の器』として)晒すことによって立ち現れる、物質と場所、物質と時間とのかかわり方の様相を、サイトスぺシフィックな作品表現として顕在化させる試みでもある。この試みを含めた落石計画の理念が、ホワイトキューブでの展示が主流である版画界に一石を投じるだけでなく、あえて辺境で実施することで中心(=都市)への一極集中や、周縁(=地方)の疲弊が震災後、より一層進む我が国の現状、枠組みを美術という表現行為、文化発信によって根本的に組み替えるためのささやかな嚆矢となることを切に望んでいる。